野崎洋光/『分とく山』総料理長

CHEF’Sシェフインタビュー

■野﨑洋光/『分とく山』総料理長 – テスト

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プロフィール

野﨑 洋光(のざき ひろみつ)
1953年福島県石川郡古殿町に生まれる。武蔵野栄養専門学校卒業後、東京グランドホテルの和食部に入社。5年間の修行を経て八芳園に入る。1980年に東京・西麻布の「とく山」料理長に就任。1989年に南麻布「分とく山」を開店し、現在はグループ店含め5店舗を総料理長として統括。書籍、テレビなど各種メディアを通して、調理科学、栄養学をふまえた理論的な料理法に基づくわかりやすい和食を提唱。著作多数。

店舗情報

分とく山

[日本料理]

分とく山


住所:東京都港区南麻布5-1-5
電話:03-5789-3838
https://waketoku.com/

interviewシェフインタビュー

Episode-1

――1日のスタートとして行うルーチンやこれをするとスイッチが入るという行動はありますか。
やはり、調理場の扉を開けた途端にそのスイッチが入ります。
やろうとする空気というのを感じますよね。

Episode-2

――料理人として忘れないようにしている心構えや意識はありますか。
”普通の人”と同じであるということ。特別、料理人は別の人と思われますけど、普通の人です。
その中で、営業マンであるとか、一般的常識を知るということが大事です。
意外とそれが欠けている人が多いですよね。だから当たり前ですが、サラリーマンであろうと普通の人であるということです。

――”普通の人”であるために必要なことや意識しておきたいことはありますか?
“普通の人”であるということは、人とコミュニケーションが取れる技術がなければいけないです。
返事をするとか、挨拶をするとか、当たり前のことを当たり前にすれば上手くいきます。
例えば、若い人を信用して「これをやれ」と言ったときに、返事をしなかったら怒りますよね。だから受け答えが出来なければ、私たちはコミュニケーションを取れることにはならないです。
ですから、当たり前に1年生と2年生と中年生で違います。10年かけたら10年分の社会人的要素を持っていないといけないです。それをお客さんだけにいい顔をして、従業員にはいい顔をしないのではなく、誰とでも同じような状況でいられるということです。俗にいう普通のことを普通に出来ればいいということです。

――何年も新しく入ってくるお弟子さんを迎えていらっしゃって、
その当たり前である”普通の人”としてのコミュニケーションについてはどう感じていらっしゃいますか。

例えば、私たちの部下にいる下手するとお孫さん(に近い年代)ですよね。
僕は父であり、祖父的な感覚で物事を伝えています。あなたたちの父はこういうことを教えたかったよね、
母親はこうだったでしょ。時代が変わっても、普遍性、変わらないものは変わらないですよね。

――正直、単純にコミュニケーションが出来ない方は結構いらっしゃいましたか。
それよりも、自分たちが変わっていないです。今でも僕たちは年寄りですから頑固ですよ。
どう考えても今の時期の理解力がないとは思います。ただ、お客様が僕らと同じ年だということでの要求もあります。社会情勢ということを見ながらするということですね。
でもあまりにもビジネスとして社会的に成り立たないことは無理なわけですから、お客様と共存して店も営業出来るという状況が出来ていなければ難しいです。
お客様だけ良くてもダメだし、店側だけ良くてもダメで、お互いに共存出来る気持ちを見つけながら、指導していかないと続けないです。ですから、僕らは麻布で40年続けてこられたということではないですかね。

Episode-3

――料理人を目指したキッカケは何ですか。
キッカケは食べることが好きだからですかね。

――料理人を目指そうと決意した時に、背中を押してくれたことや人、影響受けたことはありますか?
その時代は料理人という地位が低かったので、入るときは父や親戚から反対されました。
今でこそいい時代になりましたから、反対を言われることは無いけど・・・
やっぱり師匠や先輩、教えてくれる人に出会えたからではないですかね。

――その反対をどうやって押し切って料理の道へ進みましたか。
押し切ったというより、言うことを聞かなかっただけです。
当時は、私たちのような板前は流れ者のイメージがあり、きちんとした社会保障的なこともありませんでした。
でも、今は素晴らしい時代じゃないですか。食の世界に入っただけで皆ほめてくれるし、それは僕らの先輩たちがきちんとした文化を作ってくれて、僕らの地位があるのだと思います。
自分が頑張ったとかではなく、今から30年前にヌーベルキュイジーヌと共に料理食がすごく伸びてきて、私たちも今だから良い職業として、楽しく、安泰して暮らしていける時代だと思います。

Episode-4

――最も影響を受けた料理や料理に対する価値観が変わった出来事や人物はいますか?
それらにどんな影響を受けたか教えてください。

修業時代に入ったお店に”鬼のキクチ”といわれる人がいたのですが、確かに厳しかった。
厳しいけど、その人の教えのまま来たから僕は今がある。一般の人はこれについていけないわけですよね。
でもその人がどうあるべきか、先程言った普通の人であるべきこと、普通の仕事をするということを教えてくれた。

――”鬼のキクチさん”との具体的なエピソードを教えていただけますか?
僕の先輩にキクチケイチさんという方がいらっしゃいます。当時、”鬼のキクチ”と言われるくらい、とても厳しい方でした。でも人間的な優しさであるとか、自分の背中で仕事をしているから社会的地位もあります。
僕が就いた時、その方は26歳でした。今まで僕が就いた料理人の中でこんなに立派な人はいないです。
今まで立派な人は沢山見てきましたけど、僕がキクチさんに就いた時、26歳という歳で自分の背中でちゃんと物を伝えている大人であるということ、見事でしたね。僕はいくら働いてもこの人には反論出来ないし、根っからの料理人であってもこの人の上を行く人はいないです。

――鬼というネーミングがすごくインパクトが強いですが…
仕事をするとき、僕らが勝手にすると怒られます。
「僕は教えていないよ、勝手に仕事をするな」「仕事をしなくていいから、邪魔をするな」と言われました。

――1番怖かったエピソードは何かありますか。
「仕事をしなくていいから、邪魔をするな」って言われました。
整理整頓をきちんとして、自分のやるべきことをしっかりやった先にその仕事があるということです。
常に冷蔵庫の後の整理であるとか、物が何個あるとかを自分の中に持っていれば、それが出来ればいくらでも仕事が出来ました。
今は入った時に人にやらされることしか仕事が出来ないです。でも、上の仕事の指示は下のものには出来ないけど、自分に出来ることは掃除と片付け整理整頓じゃないですか。相手が動きやすいようにセットをしておくことじゃないですか。これは世の中全てがそうです。自分の立場立場において仕事が出来ると、いくらでも仕事を教えてくれます。人間的謙虚さとか、言葉遣い1つにしてもそうです。
僕はこの方に直接2年間就いていたら、それから他の所へ行ってもトラブルを起こすことは無いです。
この方の教えで、僕は他の所へ行ってもスムーズにいきました。それまでは軽い気持ちのチャラチャラ男だったので、それで行ったりするとどうしても相手にしてはもらえませんよね。
僕は今まで沢山の料理人を見させていただきましたが、その人に対する信頼感は皆さんと違います。直接教えてもらった2年間が全てです。世の中の大人の人たちより、当時のキクチさんは遥かに大人でした。
40歳くらいの有名な偉い師範とかよりも人間的に信じられる。1番大事なのは人を信じられることです。「この人だったら」ということです。自分が腹を割って何を言われようがついていこうという気持ちです。
この方とはトータル5年くらいしか仕事をしていないですが、いまだに自分の精神論はこの方です。原点ですね。

――ここまで信じられる絆みたいなものは何でしょうか。
それは目の前で見せられたからでしょうね。口で言うことは誰にでも出来ますが、それを自分の後ろ姿で教えてくれながらも、とてつもなく優しい部分があるからです。僕らの糸が切れそうだなというときに、そっと手を差し伸べてくれるところです。だから心理学的には素晴らしいですよね。

――どんな形で手を差し伸べてくれましたか。
お酒を飲まない人だったので、ちょっとお茶をしに行こうと誘っていただいたりしました。
深夜の茶会があって、説教を受けていましたね。自分がどうあるべきかということを言われていました。
僕の原点はその時代にとてつもなく技術も伸びています。普通は1番下だからこの時代に技術は身に付かないだろうと思うけど、最初に入った店から次のホテルの間に少し空白があります。その空白の時間にキクチさんに預けられていました。自分はその時に逃げ出そうとしていました。(十二指腸潰瘍を患うほど)1番神経をやられていた時期です。
その時代は朝1番に行って、1番最後に出て、休みなく働きました。その頃、僕は10時出勤で良かったのを5時、6時に行ってましたからね。それはキクチさんとの闘いでした。自分が準備を出来ていないと、人と同じラインに立てないです。走る人が一生懸命走って準備をしていたからスタートラインにつけるのです。僕はスタートラインに立てる前のことをしていなかったわけです。

――準備の準備体操のようなことですね。
そうです。入った時にはそれに気づかないです。私たちの元に入ってくる若い人たちだって、皆それを出来るのに、それを教える人はただ「やれよ」「やっておけよ」としかないです。それを自分で気づけるかという事です。気づかせてくれたことがキクチさんのすごいところです。普通だったら腕力や何かで「頭にきた!」と言って逃げることも出来るけど、それも出来ないくらい迫力もあったし。その出会いですよね。

――預けられたとおっしゃっていましたが…
親方は別にいましたが、その後にホテルに全員集合するまでの間にキクチさんに預けられました。
その時代が僕の人生そのものです。

――調理の面でキクチさんとのエピソードは何かございましたか。
鍋を磨くのに僕らはスチールを使ってきれいにします。でもそれはダメなので怒られます。
ヘチマを使って磨きます。金属で磨くと鍋が減るし、金属の味がでるからダメだと言われました。
仕事のスピードも違いましたね。仕事をしなかったらその人のことを尊敬しますか?
先頭に立つ、後ろ姿で見せる、それでこちらが出来ないことを論理的に指摘されたら、ぐぅの音も出ませんよ。だから僕らもそれ以上のことを勉強しないとならない。そこについていくための能力も身に着けないといけない。

――いかに自分が尊敬出来る師匠に出会えるかというのも大事ですね。
そうですね。魅力があるからついていけるんですよね。
厳しいだけではない魅力があります。例えば、昔の清水の次郎長になんで子分がいたと思います?
清水の次郎長は「子分のためなら俺は命を落とせるよ」という感覚だったから子分がついていきました。
今でも覚えているのは、結婚式用の100名以上の料理をやったときに、具合が悪いといって上の人たちが出てこないわけですよ。その時に2人で100名分の重詰めを作ったのを覚えています。
いつも言われてました「精神面が勝ってはダメだよ」って、でも精神面の方が多いですよね。

――40年続けてこられたという、今の野﨑さんを作り上げた原動力はなんですか?
お客様です。お客様とのコミュニケーションが取れる技術を若いときにキクチさんに教わったことがそのままです。当たり前のことを当たり前にする。つまり普通のことを普通にしなさいということです。

Episode-5

――過去に「もうダメだ!」と思うような試練はありますか? それをどう乗り越えましたか?

毎日ダメだと思っています。でも誰と仕事するかということ、自分との闘いです。
それは、もう誰でも思っていることです。別に楽だって駄目だと思うことはあります。辛いというのは労働とかそういうことじゃなくて、精神的にもあるし肉体的にもあるでしょうが、やはり人のためじゃない自分のためだと思ったほうが出来ます。人のために僕は出来ないです。

Episode-6

――現在を築く上で最も成功につながったと思う試練と、そう思う理由を教えてください。
成功したかは分かりませんけど、僕は普通の人と違って仕事しか出来ないです。
まずはお酒が飲めない、ゴルフが出来ないから接待は出来ない、車の運転が出来ないから品物搬入出来ない、パソコンが出来ないから商品会議は出来ない。ですが、朝から晩まで仕事だけはしています。これは僕の強みです。

Episode-7

――ココロとカラダのバランスを整えるコツは何ですか?
病気にならない職業にすることです。料理人ですから当たり前のことですけど、自分たちの健康管理が出来ない料理人がいっぱいいます。
これから「健食」という健康のことをしゃべれない料理人は料理人じゃないと思ったほうがいいです。毒を作っているようじゃ、しょうがないわけです。そのバランスの取れた料理を、ただ作る。僕の歳は67歳だけど、1回も寝込んだこともないです。会社を休んだこともありません。遅刻もしません。

――料理人としてスタートを切った方々は、いろいろな悩みを抱えることがあると思います。そういった料理人としての日常の悩みや壁にぶつかった時に、どういう意識や生活を送ることで、そこから抜け出すことが出来るものでしょうか?
これは個人差があると思いますが、ただ普段に戻れる状況に自分をつくっておくことではないですかね。
寝不足になりますから、睡眠がとれたら悩みは解消出来ますよね。問題を抱えている人は寝れなくなるわけで、寝れたらそんなに辛くはないです、寝不足だから悩みが深くなります。

――寝れないほど悩んだことはありますか。
あるのではないですか。僕は若い子に「悩んだら必ずマッサージに行くようにしている」と言います。
何が言いたいかというと健康な身体をつくっていなさいという事です。お酒の飲みすぎもダメだし、食べ物もバランスよく食べないとダメです。
それには、少しストレッチをして体を動かし、特別スポーツはしなくていいから、動く身体を作っておかないとダメです。それと食べることも餌ではないので、物として理論のある食べ方をしていないといけないです。
僕は悪い所どこもないです。

――私が1番びっくりしたのは、お肌がつるつるだと思いました。
悪いことをしていないですから。仕事と寝る事しかしていませんから。
あとは、ちょっとくらいストレッチして、朝は散歩とかしてこの辺を朝早くから歩いています。
自分の身体は自分が守らないとです。若い頃は遅くまでお酒を飲んでいたとしても、今は疲れるだけです。
やはり店にいて、楽しい時間にした方が良いわけです。
壁にはぶつかりますよ。けど、コミュニケーションの取り方1つです。
僕らも若い人に僕らの姿を見て判断すればいいし、それを真似するという事ですね。

――何よりも心も身体もコンディションをきちんと整える。それが乗り越えられる力になる。
疲れていたら乗り越えられないです。だから僕らはいつも来るなら来てみろという感じで構えますよね。
そうやって修業時代から生きてきたわけだから。

――現在でも壁が訪れる可能性はあるという事ですよね。
コロナ禍が来たじゃないですか。
でも、それは受け止めて、現実に対して、どういうことを出来るのかという冷静な判断が常に必要です。
あまり慌ててもダメです。
例えば仏教の言葉で”喫茶去(きっさこ)”という言葉があります。これを見ても何か分からないですよね。
これは「まずお茶を飲みなさい」という事です。なんで「お茶を飲みなさい」かというと、お茶を飲むことで、ゆっくりそこで物事を考えてから次の行動を起こしなさいという事です。
昔、クイーンアリスの石鍋さんが、「朝来たら1杯くらい珈琲を飲みなさい」という本を読んだことがあるけど、そのくらい落ち着いた方が仕事も進むと、仏教の言葉が石鍋さんの言葉そのものじゃないかという感じがしました。

――ゆとりもいるし、落ち着く冷静さも大事ですね。
1杯のお茶を飲むぐらいの余裕がないと一生懸命やっても進まないです。1回そこで制御をするという事をしたら出来るのではないかと思います。でもいまだにその精神にはいかないですけどね。

――でもお話を聴いていると、お茶を飲む理由も普段のコンディションが整ってこそですよね。
それを味わうことが出来る、他愛もないことからよく考えて、そこからスタートしませんかということではないですかね。

Episode-8

――商売道具である手を見ればどんな料理人であるかが分かったりしますか?
分かります。お客様がだいたい食事に来ると分かります。

――料理人の手を見てその料理人の仕事ぶりが見えるものですか?
手さばきであるとか、美しさも芸事なんですね。それも料理人が箸を持ちながら提供したら汚いけれど、きちんと持って出せば、お客様も美味しくなるし、マナーです。

――形そのものというよりは動きや技法ですかね。
仕事してきた手なら美しいですよね。きちんと仕事をしてゴツゴツしながらも美しさであるとかそういうのは見ると嬉しいじゃないですか。この人、偽物ではない本当に仕事をしてきたなということです。
だって物を書く人は指にペンたこが出来るから分かるじゃないですか。どのぐらいのものなのか。
板前もそうです。間を持てる人とかね。これはお客様にもいます。このお客様は分かるなというのは雰囲気で一瞬にして分かります。僕たちは何十年もカウンターで見ているから、お客様が通であるとかもすぐ分かります。
お茶も実はお茶を入れているのではなく、あの間の保ち方が上手な人は男性でもいます。
正直言いますが、料理人が店に来ると分かります。この間がないです。お客さんは食べる経験値があるから、妙な間があります。板前の方が落ち着いていないです。これ板前だってすぐに分かるので、ライバル店の人とかが来たらすぐに料理人だと気づきます。その話をどこから入れようかということだけですね。
最初から知っていても知らないふりをして、途中から話す感じですね。

――野﨑さんのお話を聴いていると色んな所にアンテナを張っていらっしゃいますね。
それは全てお客様に可愛がっていただきました。カウンターに47年程立っていますけど、いい仕事です。
自分の好きなことで仕事をして、お金をもらって、こんな職業はないです。
お金をもらって喜ばれる仕事なんて、なかなかないじゃないですか。

Episode-9

――それぞれの個性に関係なくプロの料理人として成長していく上で必要なことや心構えは何ですか?
なんでも”謙虚さ”ということが言われているけど、ただ一般的には人との”謙虚さ”についてしか言われていないですよね。食材に対する”謙虚さ”であるとか、本当に物事1つ1つクリアしていくこと、一気にいこうとするからダメです。板前だったらすぐに柳包丁を使って刺身を引こうとするからダメであって、大根1本がどういう状況であるか、米がどういう状況であるかを1つずつ考えながらやっていけば、それをクリア出来た時に最短で覚えられます。けれど、それを毎日おざなりにしている。
僕は修業時代に毎日3つ覚えることをしました。なぜ3つかというと1年間に1000個覚えられます。そこを意識することが大事です。

Episode-10

――向上心を持続させるためにしていることはありますか?
やはり健康であること。自分の体調を整えなければいけない。僕は朝5時ぐらいに起きてストレッチを1時間ぐらい公園でしています。また食事に対して、どういう食事が自分にとってバランスがいいのかということを考える。そして寝不足が一番禁物ですよね。でも僕は普通の人より寝る時間が少ないです。でも自分の体調を人に相談するのではなく、自分にしか出来ないバランスというのが大事なことだと考えています。それを心がけてください。

Episode-11

――師匠や先輩を超えたと思った瞬間がありますか?それはどんな時でしたか?
超えないですよ。先輩に教えてもらいましたからね。ただ、先輩や師匠と違う道のスタイルは作りました。
超えたのではなくて、先輩が教えてくれた。そんな失礼なことは言えないです。
超えたというより、違うジャンルに長けたことであって、自分たちが知識としてその師匠、先輩から教わりました。極端に言えば野﨑流を作っただけです。

Episode-12

――同世代の中で劣等感や優越感を意識することはありましたか?
ありましたよ。僕は20歳で板前になって、18歳で板前になった人がいる。
彼より2年歳上だからやはり苦しいですよね。皆さんもそうだろうと思うし。
でもそれは自分の活力になりますよね。

Episode-13

――意識して行っている日常のルーチンはなんですか? それを行うようになったキッカケと意味を教えてください。
日常で、歩くという癖をつけています。1駅30分くらいは歩くとかです。
そして大事なことは、歩いている間に物を考えることが出来るということです。なんでも速ければ良いということではなくて、その考える時間が必要です。

Episode-14

――数ある料理ジャンルの中から、このジャンルを選んだ理由は何ですか?
勉強しなくて済むと思ったからです。
だけど入ってみたら、とんでもない文化の幅広さですとかね。まず算数、数学が大事だ。国語が大事だ。理科が大事だ。歴史が社会も大事だ。道徳も踏まえたとんでもない職業だということは入ってから分かった。

――野﨑さんが、選ばれた日本料理の素晴らしさや、深さ、難しさについて教えていただけますか?
私たちが板前になろうとしたときに、刺身を切ればいい、天ぷらを揚げればいいみたいな感覚できたら全然違いました。文化であるとか、歴史であるとか、理由であるとか、それを全部知ってしまったときに、のめり込む要素となりました。これを勉強しない手はないなと思いました。
30年くらい料理教室をやっているのですが、出来るから教えているのではないです。料理教室があるから、勉強が出来るのです。今まではあり得なかった事実が歴史的、文化的、宗教的に全部食の中に出てくるわけです。例えば、懐石とは何かと聞いたら皆きれいな言葉ばかり言いますよね。懐の石というのは「温石(おんじゃく)」と言いますが、じゃあ「温石」とは何なのかというと、元々は精進料理からくるわけですよ。
では、なぜそういうことになるかというとお坊さんが1日2食しか食事をしなかったので、朝と昼しかないのに、夜は空腹になるから石を入れて空腹を紛らわすしかなかったからです。これを大体板前は知らないです。
でも、お坊さんが夜食べているものを知っていますか?「薬石」という薬の石です。そこから発祥して、宴会料理が懐石になるとか、その日本料理の神様を聴いても大体の人は分からないですよ。そういうことを調べることが楽しいですよね。

――事実にも感動しましたが、全てがスラスラ出てくるというのがすごいですね。
そういう楽しさもあります。例えば、僕らが使っている唐辛子は、江戸時代の中期頃からしかないです。
それ以前では何をスパイスとして使っていたかというと、胡椒です。これは室町の時代まで遡ります。
1592年の秀吉の時代に韓国に日本から唐辛子が入ったこともすごいことだと思いませんか。
そういう歴史を調べることや、今度はサイエンスです。今日やった料理のたんぱく質の変性であるとか、温度によって違いますよね。そういうこともすごく楽しいです。うま味はこうしたら引き立つであるとか、キリがないです。だから板前がこの歳になっても、勉強しなくてはいけないこと、楽しいことがあります。
先程言った、30年なぜやって来られたかというと、本を100冊以上書きましたけど、それがあるから勉強が出来ました。他の人にはない歴史や民俗学も踏まえて、ただ料理を作るだけじゃ楽しくないです。なぜそれが出来るのかというと料理教室の生徒さんやお客様との兼ね合いや、ジャンルの違う人達といた時、自分に対しての理論武装を着ることによってコミュニケーションが取れます。
だから、仕事は辛くしてはダメです。自分が遊ぶことは楽しくて、仕事は労働だと思うから辛いです。どうせやらなくてはいけない仕事なら楽しくやることです。僕はいまだに朝から晩まで店にいます。店にいることの楽しさがあるからです。店にいて勉強した事をここで若い人に伝えられたらそれも楽しいですよね。

――逆に難しかった事や、苦手だと思うことはありましたか。
1番苦手なのは、お客さんとどうやって上手くやるかということですかね。
僕らは親の七光りではなく、頭が良くてなったわけではなく、そこら辺のあんちゃんが板前になってどうやっていくのかというと、謙虚さなどの知識を入れるには、そういうことがなければ教えてくれないですよ。

――野﨑さんはカウンターでお客様と接触されていますよね。
1番きついのは若い子ですよね。
朝から晩まで店にいますから、若い子はこのおやじ早く帰れよとか思っているかもしれませんね。

――その分、学ぶ時間もきっと多いですよね。
でも若い子は若い子で、一緒に楽しみながらやっています。

Episode-15

――どんなコトやモノに料理づくりのインスピレーションを感じますか?
毎日の生活のこと、どういう風に食べたいであるとか、季節であったり、二十四節気、諸々の行事のことです。やはり自分が勉強出来るという事に対して、すごく幸せなんです。皆さんも目が見える、鼻がきく、耳がきく、口がきけるんで、勉強出来る分勉強しているかどうかなんですよね。知らないことを知るという楽しさがある。その次に自分が新しいことを考えつくということがさらにすごく楽しいことだと思います。

Episode-16

――自分の専門分野以外の味を勉強する必要がありますか?
あります。絶対あるんです。それは他の人がどういう考えをしているかどうか。僕は今から大体30、40年弱前くらいの時に、KIHACHIの熊谷さんが葉山にいらして、その料理を食べたときにショックを受けました。僕らの料理はこれじゃちょっと遅れているな。和食という魚の分野は得意なのに、向こう(洋食)の方が、魚が美味しいというのはちょっとショックでした。

Episode-17

――残業が厳しくなった中で技術の習得に影響があるとの声を多数聞きますが、どう感じていますか?
それは誰が決めたことなんですか?それは自分たちのシステムということであって、じゃあ家庭の主婦のこと考えてみてください。皆さんのお母さんが残業代もらってます?休みはないです。結婚して子供産んだ途端に、止まらない電車に乗ったことと同じなんですよ。だからって皆さんに愚痴をこぼしますか?
誰のために働いているのか。お金をとることだけを考えてしまうとそういうことにしかならないです。
それはくだらない部分であって、自分が世の中において自分の存在感を作るには、人の倍仕事が出来た方がいいです。仕事が出来て、その付加価値として、対価として、お金をもらったりすることですけどね。サラリーマンでも公務員でもいいと思います。ただ人の倍仕事をするのが嫌な人は最初からやめた方がいいです。最初からその考えが間違っています。

Episode-18

――これだけはゆずれないというこだわり(料理・調理器具・器・店舗・接客等)はありますか? こだわっている理由は何ですか?
今言ったことと一緒で、なんで人のために仕事をするの?ということですよ。私は本当に50年近く仕事をしてきたけど、それは修業時代に入ったときは確かに嫌だったけど、嫌だということからクリア出来る精神をもったら絶対嫌じゃなくなります。嫌だと思うスイッチを、『人の倍仕事したから得する』というスイッチに切り替えればいいわけです。じゃあ遊んでいることって24時間遊んでたら楽しいですか?楽しくないですよ。もっとつまらなくなります。自分が一生食べなきゃいけないと思った職業は、やはり楽しい人生として続けていけば、僕は全然苦痛だと思いませんけどね。

Episode-19

――こだわりはキャリアと共に強くなっていくものか、逆に薄れていくものですか?
いや、そのこだわりはその場面場面によって変わります。この頃はクレームにこだわっていた、あの頃はこうであったとか。そのシチュエーションが変わることが人生だと思います。これは楽しいことだと思います。だから若い頃はこれにこだわっていたのに、今はこうだよねとか。その後にそれを見ながらもう1回それを持ってきて、今のプラスした時代の変化というものを作れた時は本当に楽しいですよ。

Episode-20

――自分がイメージした料理を実際に一皿にして提供するまでにはどのような試行錯誤をしていますか?
僕は、もう大体頭で考えて80%味まで料理は出来ます。そして献立を作ります。それが出来るのはなぜかというと、今まで朝から晩まで修業したからです。ただし、自分の好みがあって好みじゃない仕事はしません。こういう仕事をしたいと思って、献立が浮かんだ時には80%味が作れています。

Episode-21

――プロの料理人にとってレシピの存在とその価値はなんでしょうか?
すごく大事なことで、世の中はそれを商品化しようと思って、皆売りに出した価値観があります。
もちろん音楽から楽譜を作るときに活用する(著作権の)こともあるんだけど、別に僕はそこまで考えなくていいなって思うのでオープンにはしています。

Episode-22

――最高の料理と最後に食べたい料理はなんですか?
最高の料理は白いご飯が食べられればいいと思います。地味だと思いますが、じゃあ美味しい米食べたことありますか?と皆さんに聞きたいですよ。一般の人でも、三食毎日食べたい、飽きないものは1番の美味しさです。一瞬美味しいと思うものとは違います。そういうものが、皆さんにはいくつあるかということです。

Episode-23

――独立を決めたキッカケ(タイミング)は何ですか?
独立は、人より早く自分の仕事が出来るようになりたいと思わないですか?自分の思った方向性とか思った形に出来るのだから、早く自分の思った仕事が出来たほうがいい。だからといって経営者になって儲かるという考えは間違い。今回のコロナだって、ひどい。全員が上手く経営出来ているわけではない。やはり自分が料理を作っているタイプなのか、お金を数えることが出来るタイプなのか。何でも完璧に出来る人はいません。だったら自分の得意な分野だけを進んだほうがいいと思います。

Episode-24

――プロの料理人にとって、自分の店を持つことの意味はなんでしょうか?そして自分の店を持たない方は、将来的にどうお考えか教えください。
何のために自分のお店を持つかなんですよね。たくさん理由はあると思うんですよ。例えばメールや携帯が自由に使える。お金が儲かる。それと自分の仕事が出来るけど、独立したらこれ全部は出来ない。どれか1つを選ばないと出来ないです。すべて自由になるのではなく、苦しくなるということを理解しているかですよね。お店をもっていなくても信用出来たら、1億円出してくれる人もいます。その信用に対して人間性や技術とかで認められれば、絶対出してくれる人がいます。あなた自身で儲かるのなら、独立して経営者にならなくても、お金を出してくれる人がいる。その経営者に対して利益をどのくらい出すか。そのためには自分たちがどれだけ人を動かせるかという人間性があるかどうかということですよね。スター性じゃない。黙っていても出来る人はいる。全部完璧な人はいない、欠点はあります。世の中に出れば出るほど難しくなるので、その中で、どういう仕組みで、自分が一番いいスタンスをとるかを考えることだけです。商売して成功した人はそうはいません。

Episode-25

――自分以外の料理人仲間との関わり方で意識していることはありますでしょうか?
私は若いころから他のジャンルの人たちとお付き合いがあって、やっぱり勉強になりますよ。例えばフレンチの人がやっている料理を、これを和だったらどうするかということ。それを向こうの人も和を洋にして、そしてそれからまた僕らも発想していくっていうこと。一番大事なことは、食材に対してどれだけ詳しいかなんですよね。食材に対して理解すると、人のマネじゃなくて、皆さんたちが自分流の家元になれるんですよ。そんな料理をやるべきですよ。人と同じじゃなくていいんですよ。

Episode-26

――料理人であり経営者であること(両立)の苦悩や、お客様に対する意識の違いはありますか?
あります。もちろんありますよね。だって経営者は金儲けしないといけないことですから。料理人だけで生きていくなら、料理を定めようとするんですけど、それもただ人の店だから、いい加減にやろうっていう人は何をしても成功しません。常に来てるお客さんが自分のお客さんだと思わないと、やはり伸びていかないと思います。
経営者がどうとかこうとかいう人がいるが、あまりにも小さなことであって、もっと大きな、皆に愛される人になるべきだと思います。

Episode-27

――新たにこの世界に入ってくる人たちが悩んでいることはなんですか?
悩んでいる人の悩みは知りません。皆さんたちが悩んでいることですよね。悩んでいることではなくて、どういうことを望みますかということでしょ?やはり素直な感じでね、人に好感を持たれたらいいと思います。それに対していじめなどは、相手が違和感を感じるから起こることで、自分が変わればいいわけです。だからそのままの今の気持ちを変わらないでいてほしいなと思います。

Episode-28

――これからの飲食業界、どうなってほしいですか?そしてどうなると思いますでしょうか。
実は素晴らしくいい時代だって知っています?私は50年前料理人になろうとしたとき、どういうつもりで職を選んだのかと親に反対されました。
家内と結婚するときに、家内の親が料理人は下から2番目の職業だって言われたらしいです。それぐらい料理人の価値観が低かったのですが、私たちの先輩たちがいかに料理人の価値を上げてくれたかなんですよね。だから本当に今の時代料理人は素晴らしい時代ですよ。僕らはこうやって仕事をしていられる。この歳になっても、こういうカウンターに立って一線にいられるんですよ。こんな素晴らしいことはないじゃないですか。自分たちがここで仕事を出来る楽しさがあるということを喜びと思えないとダメですよ。
誰が支えてくれているかというとお客さんです。どれだけお客さんを自分たちの味方に引き入れることが出来るか、それは一生懸命仕事をすることじゃないですかね。

Episode-29

――時代が変化していく中で、料理業界はどうなるべきですか?
先程言った僕の時代と違って、今は全然、解放された。それに不満を持つ人もいます。
僕は僕の時代にしっかりやってきたから今があるし、これからもそうあるべきなの。でもその時代の考え方っていうのも色々あります。これは国が決めることでもある。やはり、人の倍やって損するって思った人は、不幸も倍になるはずです。僕は倍仕事したら倍楽しいなっていうことでやってきたつもりなんですよね。だから僕は不幸になってないです。お客さんに愛されるし、たくさんのお客さんとの時間と空間を共に出来る。これを僕が最初から不機嫌そうな顔したら寄ってこないでしょ。こういう時間を自分が作るんですよ。自分のワールドっていう言葉を作ったら料理人だって堂々と胸を張っていけると思いますけどね。

――独立は、料理人のスタートから意識していましたか?
また独立するために、自分にとって必要なことはなんでしたか?
独立を意識してから、独立までの過程は順調だったのでしょうか?

料理人が皆思っていることはそこだと思います。
でも「部」というのがあります。中学の頃「俺、将来は社長になるよ」と漠然と言ってませんか。社長とは何なのか分からないで喋っていると思います。料理人がお店を出しても、大体3年で7割方が店を閉めています。10年後には1割もいないです。自分がただものをやればいいとか、好きだから儲かる。
僕は将来何をやればいいか考えたときに、お茶漬けをやればいいかなと思って、それも3帖ぐらいの店でいいのではないかと思っていたのですが、それぐらい簡単に店をやれればいいと思っていましたが、3帖のお店でお茶漬けをやっていくらの利益が出ると思いますか。お金になるか考えてもそれは無理な話です。
200円、300円のお茶漬け出してあり得ない話です。経営とは何か考えているうちは出来ないです。
ただお金があってもダメです。お金がなくても出来ないということですね。

――中学生くらいの頃から、漠然とお店をやりたいという気持ちはお持ちになっていましたか。

誰でもお店をやりたいと思うかもしれないですが、それは出来ることではないですよ。

――実際に独立をするためにしたことはありますか。
漠然とお金を残さないと出来ないことです。
そういうことを考えていきますけど、それはお金じゃなくて1番は信用です。

――それは、お客様からの信用であり、周りからの信用でしょうか。
僕は27歳でお店をしています。その後倒産しました。
自分が出来ると思いましたが、実際にやってみたらそこまでもいってないです。
論理的に分かってくる経営とは実際に違います。ただ金勘定や料理を一般的に出来ただけの話であって、それは出来たということではないです。

Episode-30

――実際に挫折を味わって、またやろうと思える原動力は何でしょうか。
原動力は、なるまでに時間がかかるので、1回どん底に落とされるだけです。上手くいくわけないし。
だからそれは、誰よりも早くやったらとは思っていますけどね。あとは信用じゃないですか。
例えば、お金がなくてもこいつに1千万出して無くさないよと言ったらお金を出す人がいますよ。
こいつにお金をあげても逃げ出すな、信用出来ないなと思ったら逃げますよ。
僕はとく山という会社に入って、1年で社長からこれでやってくれるかと言って、小切手と印鑑を渡されました。29歳くらいでした。こいつにお金を出してちょっときな臭いなと思ったら渡さないですよ。でもお金をそれ以上にしていったら信用してくれますよね。お金がなくても人を引き付ける魅力、人を動かせる能力があればお金がなくても商売は出来ます。例えば、その日に身内じゃなくて、お金いくら欲しいか言って人に借りてみてください。そこでいくら集まるかというのが人の信用です。
必ずこれぐらいのフロアでお店をやるときに1か月に何人動かせるかという事を必ず聞きます。200人動かせるのなら独立してもいいけど、大体ほとんどの人が20、30人と答えます。それは独立を辞めたほうがいいよ、能力が無いよと言います。店を出したからといって、お客様は来ません。
それぐらい魅力があるよな、例えば煙草屋のおじさんであろうと、洗い場のおばさんであろうと、コミュニケーションを取っていたら、「あなたの店だったら絶対に行ってあげるからね」という事になるわけです。
仕事が出来ているだけでは人は来ませよね。僕らはお金がないと言ったときに、上に合った喫茶店の人にお金を貸してくださいと頼んだ時に20万ぐらいポンと貸してくれたりとか、蕎麦屋さんのおじさんが「野﨑君だったらいいよ」と言って本当に助けてくれました。そういうこととか、人に信用というものがあれば誰でもお店は出来るのだけど、ちょっと君には無理だよねと言う言葉が出てしまったら無理ですね。だから先程言った、普通のことを普通にしていたらいくらでも人は広がります。
自分に酔いしれてもいけないし、コミュニケーションという社会における自分の立場をどこに位置付けるかという事だと思います。だから派手になることもありません。
僕が金を儲けたとしてください。金儲けで、お客さんよりいい車に乗っていたらお客さん来ますか?
お客さんは俺より下だから、こいつを応援してやろうという気持ちになるわけです。だから僕は金儲け下手だったけど、人儲けはしました。それが経営者として必要なことです。

――経営者野﨑洋光の理念はなんですか?
普通の感覚を持つという事です。
例えば、私たちの料理は15,000円で30年ずっと一緒です。料理の中身もはっきり言って良くなっています。
新しい料理を作っている今の子たちは僕らより頭がいいです。どんぶり勘定ではないです。妥協線というのがあります。お客さんから5万円の料理を作ってくださいという依頼が来ます。そこで、僕は出来ますが味は同じですと答えます。だから僕らは15,000円で、それ以上の値段を出してもらわなくていいと伝えます。充分美味しいですから。高い食材をブランド品持ってきて乗せているだけであって、それがこんなに違うのか。だから、そこの美味しさを分かっていればいいです。お客さんがそれに対していいお付き合いをする。
例えば、その価値観というのも僕らの態度にもあるわけじゃないですか。「俺より高い車載っているな」とか、絶対にお客さん来ないですよ。
普通の感覚を持っていないと。常にお客さんに来ていただけるという状況を作らないといけないです。
技術もそうですが、それ以前に一番大事なのは人間性です。若い子にしたってそうですが、「きちんとした挨拶が出来ないのか」とかね。
僕は皆さん全員お見送りします。自分の家にお客さんを呼んで、お金をもらわないのに玄関まで迎えに行きますよね。帰る時見えなくなるまで見送ります。では「なぜお金をもらっている人がそれを出来ないの?」という事です。僕が接客をしていて、ビルの3階にいて見送りして1階で待っているという手法でした。それは看板がないとかという事だったので、そのお客さん二度と来ないのではなくまた来ていただかなきゃいけないというストーリーを作らなくてはいけない。それが本来の懐石という事です。皆その事からズレていますよね。
「最高の食材を使ったから腕がいい」とか、「高い値段をもらったから腕がいい」のかとか、僕は自慢するより、1,000円でも5,000円でもいいから、コースを料理出来る人を尊敬しますね。

――最高のおもてなしとはなんでしょうか?
頭の下げ方一つだと思います。これはお茶の先生に習っていた時に教わりましたが、あなたが茶人になる事ではなくて、頭の下げ方でようこそいらっしゃいませという、その風格です。それはいまだに出来ていませんけどね。その間のもたせ方や、距離感ということが出来たらお客さんの信頼感ではないですかね。

Episode-31

――プロの料理人としてご自身を採点してください。その採点ポイントはいくつでしょうか。
点数は分かんないけど、まだまだですよね。
昔、帝国ホテルに村上信夫さんっていう有名なシェフがいたんですよ。僕は初めてお会いした時が62歳のとき。先生お歳・・・っていたら、「私はまだ62歳です」って。亡くなる少し前にお会いした時もまた聞いたことあるんです。先生おいくつになられましたかって「まだ83歳です」って。「まだ」なんですよ。必ず「勉強していますか」と、いつも僕に問いかけるんですよね。多分その言葉が全てだと思います。
例えば6月1日はタケノコの節句だったいということを分かっている人は誰もいないです。プロの料理人でも3つ星でも知らないですよ。こういうことを知ることが、僕はすごく大事だと思います。人にはないことを自分は勉強できる。これは、私たち人間に許された考えるということです。これを常に持っていたら楽しいですよ。

Episode-32

――自身を理想の料理人に近づけるために必要なものは何でしょうか。
それも自分が決めることじゃないです。理想の憧れの料理人、根っからいた料理人たちを皆、僕は憧れています。「こういうかっこいい料理人になりたいな」とか、「かっこいい男になりたいな」とかね。そういう人たちはいっぱいいるから、励みになるじゃないですか。自分がトップなんて思っていないですよ。本当に「この人みたいにかっこよく振舞いたいな」とか。
それは自分に振舞うこと、例えばお茶を習うことだってそうだし、なにした時の姿勢であるとか、自分っていうのは鏡なわけでしょ。だから人の振りをみて、わが身を振り返るっていうことをやる。こんな料理人にはなりたくないなという料理人はいっぱいいます。

Episode-33

――料理人人生における究極の理想や目標は何でしょうか。
自分がそこにいる存在感があることじゃないでしょうか。
「お前の料理はまずいよ」って石ぶつけられたら、いる価値ありますか?自分がここにいてほしいということをお客さんに望まれているから、毎日僕らがここに立っていられます。
自慢ではないですが、お店に朝から晩までいて、店を空けないです。営業で外に出ることはあるけど、地方に行っても必ず17時にはここに立つようにはしています。でも僕は損したとは思っていないです。だから自分が好きな時に帰って、遊んで、飲み屋に行くことが好きな人は行っていいですよ。
僕にはそうじゃないです。だから皆と一緒じゃなくていいです。自分が自分のしたいことを貫けばいいです。

Episode-34

――ズバリ!一流の料理人とは何でしょうか。
いや、分かんない。自分で決めることではない。一流の料理人って…人が決めることじゃないですかね。
ただ、自分がお客様を裏切らないという仕事をするべきですよね。
例えば、王さんと長嶋さんがなぜスターだか知っていますか?一流を演じきれたからです。表であろうと裏であろうと、自分が一流って言われたら、それより記録のすごい選手だっているけれど、なんで長嶋、王っていうことになったかというと長嶋さんは自分が一流ってことを演じきれた人です。王さんもそうです。それは威張ることでも何でもないです。それを演じきれない人は「俺が!」と言ってもなれないです。テレビに出るからとか、雑誌に載るからじゃないです。そこにおいての価値があるから。人間そこだと思うんですよ。

――料理人人生で一番感謝していることは何ですか?
働ける場所があるという事です。47年程の料理人人生をやってきたわけじゃないですか。これ普通の会社だと僕の歳は仕事がなくなります。今日最初に話した、親から反対を受けた職業をなぜするのかという事ですが、この職業であるから長く続けられたという事もあるわけです。何でもないけど、自分の身体の中に財産を留めて、下手すると、全国、全世界からお呼びがかかるし、こんないいことないじゃないですか。

――その素直さや、謙虚さをお客様も分かっているから、40年間続いているのですね。
ただ本当に教えていただいた距離というのは、お客さんとコミュニケーションが取れるから続くのであって、この先もいいお付き合いが出来たらとは思います。

Episode-35

――料理業界を目指す方々に少し夢のある部分もお話いただきたいのですが‥キャリアを積んで皆さんに認められるようになった時の、収入面や生活面で「夢」を感じられるエピソードはあるでしょうか。
例えば、僕が29歳の時に小切手を渡されたように、「あなたに1億円預けるから、それがもし減らなかったらまた1億円追加しますよ。その次も成功したら10億円で組みませんか?」ということで事業出来た人を誰だか知っていますか。喜八の熊谷さんです。サザビーリーグと組んで、最初に10何億円用意してもらって、銀座に高級なお店をやっておられました。
そういう人じゃないですかね。熊谷喜八という人に賭けたわけじゃないですか。
信用という人間性的な男であるという事、という言い方はおかしいけれども、それは男冥利に尽きないですか?
それを冠にお店の名前につきました。だからそのぐらいの男にならないと、かっこよくないです。

――女性の料理人で活躍されている方もいらっしゃいますし・・・
うちにいた女の子が、フランスに行って店をやったというから。すごい子もいるんですよ。
うちに3年位いて、語学勉強に行くと言って、結婚してカフェをやって、戻って来るたびにうちに寄ってくれるけど、女性だからと言って馬鹿には出来ませんね。外国であろうが、ハートを持っていれば、やれますよ。

――生活面ではいかがでしょうか。料理人であるがゆえに特をしたことは何でしょうか。
料理人であるがゆえに、朝から晩まで仕事をしているので、お金を使うことがないです。修業時代からそうです。これを歩くと浪費しすぎてしまうので、高収入をいただかないと動けないけど、店にいたら食事も出来るし、白衣も貸し与えられているし、こんな便利な事ないじゃないですか。
無駄なことに日本人はお金を使っています。

Episode-36

――沢山の収入はどこにいっていますか。
収入ないけど、朝から晩まで仕事をするから、稼がなくていいという事ですね。
使ったらキリがないですよね。僕は子どもの自分に「金を稼ぐことを考えてはダメ、使わないことを覚えなさい」。その時は子どもの頃、ケチ親父と思っていたけど、今考えると、「そうなのか、無駄な事に使うのではなくて、使う場所をきちんと考えておくのか」と、だから父はケチではなく、「使う場所をきちんと考えて使い、どういう貢献をするためのお金を使うのか」という事だと思います。
浪費することも経済環境を良くすることだけどね。自分がもらったからと言って、バカ騒ぎして遊ぶことではないと思う。

――野﨑さんが先程からお仕事は楽しいとおっしゃっていた原点は、お父様の考えというか、過剰な欲に繋がっていない所ですよね。
普通の会社にいたらすぐ首になります。まず酒を飲まない、ゴルフ出来ないから接待が出来ないです。免許あるけど、車の運転出来ない、品物搬入出来ない、パソコン出来ない、商品管理出来ないから首ですよ。
だからこれにしがみついていないといけない。ただ真面目にやっていれば、この職業は食べていけます。助けてくれる人もたくさんいます。お客様から優しさで休ませるために、「野﨑、不味いから休め」と言われました。こういうお客様からの優しさで支えられて今があります。

――たくさんの本を執筆されています。「夢」の部分として、メディアでの活躍もあるかと思いますが、メディアとの関わりで夢を感じられることはあるでしょうか?
だから、お客様に自分の好きなことをやって、お金をもらって、もう少し褒めろと言って、こんな職業ないです。

――お客さんに気遣いをしていただける素敵な職業ですね。
僕は意外と人が苦手で、照れもありますし、たまたまそれに慣れただけであって昔から変わっていないです。
ただ、自分が積み上げてきた知識を人に教えることが出来るのであれば、それは簡単に出来る。
例えば、プロの料理が正しいわけではなくて、僕らはビジネスとして成功する方法を伝えるけど、家庭の料理はもっと美味しいよという言い方をします。例えばお家でお刺身を食べる時、冷やご飯で食べますか?味付けて冷ますより、アツアツのご飯で食べた方が美味しい。寿司屋は握るために硬めにご飯を炊く。
家庭とお店の視点を変えないといけないです。

――メディアに出るとそういうメッセージが、一度に多くの方に伝わりますね。
メディアに出るのはただ恥をかくだけですよ。それで仕事が出来ないのにそこに出たら自分は恥ずかしいではないですか。どんな道にもスペシャリストというのがいます。その人から見たらこの人仕事出来ないというのがばれます。だから僕らがメディアを見ていてこの人は仕事が出来るかが分かります。
そういうことの、どの世界にもいるんですよ。恥を忍んで出るか、テレビに出なくても腕の良い人はたくさんいる。たまたまテレビというメディアに合うか合わないかということだけ。
腕が良いとか、人間性が良いから出るというわけではない。テレビに出なくてももっと良い人はいます。さっき話したキクチさんもそうです。

――たくさん出ている人=優れている人というわけではないということですね。
そうです。職人に対しての責任もある。自分が出て行ったときに失敗する人もいる。
芸能人でもそういう人がいる。こんなことやらなきゃいいのに。

――本はどうですか?出されたキッカケは何ですか。1番最初は何でしたか?
1番最初は僕の学校の先生が書いてみないかというので、書かせていただいた。そのときに、柴田書店に頼んだのですが、その時の編集者が、「柴田書店は貧乏だからお金をあげることは出来ないけれど、この1冊を出すことによって、あなたに全国にいる”人”という財産を与えることは出来る」とおっしゃいました。
それで10年後に本当にその効果が出ましたからね。こういうことだったのかと思いました。

――具体的にどんなことですか?
本を出すことによって全国の見た人に関連性が出来る。2冊目に魚の裁き方を書いたら、帝国ホテルの村上信夫さんが、「これいいね」って褒めてくれた。
その本が出たのが35歳くらいの時だったかな、それから5年後くらいに村上さんにあったときに、そう言って
今でも思うことは、3冊目くらいまでは覚えているのですが、仕事をしながらやる、缶詰になってやっていると精神状態がおかしくなります。二度とこんな面倒なことはやりたくない。朝から晩まで仕事していると、なかなか時間がない。ところが魔物があって、1冊の中に収まり切らない内容を次書きたくなるんですよ。あれを書き切れなかったから次書きたいと。
自分は頭が悪いし、書くことも得意じゃなかったけど、朝日新聞に原稿を書かないかと言われ、2年間書かせてもらったし、そういうことで、ものを書くことによって、確実性が出来る。単なる感覚ではなく、なぜこうするか、そこからなぜこう切るのか、煮るのかなど疑問をつけていく。ひとつひとつ自分の中で哲学的にものを作れるようになった。文字を書かないと出来ないことです。慣れてくるとデジタル的に出来ていくようになります。仕組みの中で料理が出来るようになっていきます。

Episode-37

――先ほどパソコンは苦手だとおっしゃっていましたので、いまだに原稿は手書きですか?
原稿は書きますよ。手書きの原稿です。すごい原稿用紙があります。

――名前入りですね!オリジナル原稿用紙。特別ですね。
これもお客さんが、朝日新聞の原稿を書いている時に、パソコンもないのにどうするのって聞いてくれて、手で書きますよっていったら、この原稿用紙をこれくらい(1m位)の高さの量の原稿用紙を鳩居堂で作ってくれて、僕にくれました。

――お客様がオリジナルの原稿用紙を作って送ってくれたのですか?
そうです。新聞を読んでいたからと言ってね。優しいでしょ。これ横書きなんです。
僕はアナログだから、読めない字を書くけど、秘書が解読してくれるし、専属通訳もいる。
この原稿用紙は昔、作家に原稿を書いてもらう時に、出版社が必ずこれを持って行った原稿用紙で、これをくださった方は出版社の方です。この横書きの原稿用紙はすごく書きやすい。一マスが横長だから、伸び伸び書けるのです。生きているうちに使い切れない紙の量ですよ。それくらいあります。あと3箱くらいあります。

――これまで何人か料理人の方のお名前が出てきていますが、
夢を感じるような生活をされている料理人の方はいらっしゃいますか。

会長の片岡さんもいいですよね。花咲爺さんみたいで、夢を撒いて楽しいでしょう。
僕らは可愛がってもらい恵まれている。中華の周さん、喜八の熊谷さん、石鍋さんも片岡さんもヌーベルキュイジーヌを作ってこられた時代の人たちがいっぱい僕らを可愛がってくれたので、和だけでなく洋のジャンルも知れたこと、皆尊敬しています。
ジャンルを問わず、そういう人たちが料理の世界を創ってきてくれたわけだから、僕らの和食も豊になった。すごい料理人たちと出会える時代に生きていられた。父からは「料理人はダメだ」という時代だったのに、こんな華やかなになった。皆さん(先輩方)が日本の料理文化の底上げをしてくれたから、こんな楽しい時代はない。だからこれからこの世界に入る人も希望をもってね。
サクセスストーリもあるし、昔と違って安定した職業になってきたわけだから、こんないい仕事ないですよね。

――今の野﨑さんの満面の笑みを見て、ああなりたいと業界に入ってくる若者たちがいると・・・
はい。是非入ってきてください。金儲け出来なくても食っていける。これが一番大事です。
食事は3食作っているんだから、付いてくるじゃないですか。お金なくても白衣も貸し与えているし、何とか食っていけるから。この職業は一番の保険ですよ。

――食べることが出来れば生きていける
そうです。


――コロナ禍で新たな働き方、新しい収入源など始められたことはありましたか?
この前、調理師学校でも言ったのですが、先人たちもこんな経験をしたことがない。
世の中はうまくいかないのです。その繰り返しです。その時代時代をどう生きるかということを考えていかなければダメです。
僕は50年近く料理人をやっていて、こんなこと無かった。僕らの父や母だって無かったはずです。但し戦争やトラブルはあった。10年前だって東日本大震災があった。あの時の方がもっと暗かった。空気、水が汚染されている。電気がないとか。今回はそれほどではない。ただ外出してはいけないという、あの時の方が、悲壮感があった。台風があるとか、色々な災害は起こると捉えていかないと、これだけでめげるのではなく、その場をどうやって繕いながら生きていくかということだと思います。もっと大きなことが起こるかもしれない。

――コロナは飲食店にとって大きな影響を受けたひとつと言われていますが、お店の方は実際どうでしたか?
もちろん影響はあるけど、僕らだけじゃないから。
皆そうだから、そこは悲壮感を持たず、皆で頑張っていくしかない。

――お店によって閉めたお店もあれば、営業されたお店、テイクアウトを充実させたお店もありますが・・・
それは普段からの生活だと思います。僕らは常連さんが助けてくれたんですね。再開したら、いち早くお客さんが来てくれるとか、本当にありがたいことです。
飲食店は普段からただお金儲けの場所ではなく、コミュケーションをとる場所として作っていくべきたと思います。

――こうなってみて、より普段からお客様との絆がはっきり見えた
そうです。儲かるってことではなく、自分たちのお客様の在り方を大事にされたらいいと思います。
その人のことが好きで来ているはずですよね。

――お店が好きで、味が好き出来ている
そうですね。

~個人質問~



――重村さん
「過去にダメだと思うようなシーンがありましたか」という質問に対して、具体的にどういうことで心が折れそうになりましたか。

例えば我々の世界でも、相手が悪いこと、自分が悪いことってあると思います。
周りから無視されたりしたら皆さんはどうしますか?そこでどうやって乗り切れるかということですよね。
突っ張るのは構わないです。でもやはり自分がちゃんとした妥協をしなければいけないです。僕は突っ張っていましたけどね。そのかわり相手に文句を言わせないだけの仕事はしました。調理場には1番先に来てピカピカに掃除をして、冷蔵庫を片付けておく。鍋も磨きました。それをちゃんとやっている人間であれば、文句を言われないです。
残業だとか理屈をつけるから人に嫌われるのだと思いませんか。僕ははっきり言いますよ。7年しか修業してないです。7年しか修業していないけど100冊以上本を書きました。それは誰からも聞いてないです。でもそんな中でも、自分というものを考えながら仕事してかないといけないです。
例えば包丁がなんでこう曲がっているのだろうと考えたことありますか?和包丁が傾く角度なんて考えたことありますか?考えていないと思います。ただ魚を卸すしか考えていないから。なんで卸していくのか、こういう形になっていくのかとか全部その時間に。修業時代に干されたときに仕事を回してもらえないのなら、自分自身で1つ1つ勉強していこうと思いましたけどね。やはり、有能な人に可愛がられなきゃいけないということなんだけど、媚を売って可愛がられるのではなく、仕事を見て可愛がってくださいって。僕も就職したときは給料って言われたら必ず言うことは、「自分の仕事を見て給料を決めてください。結構です。」って言いました。それぐらい自分に自信を持たなければいけない。ただ給料ほしいって言ってもくれない。「僕の態度と仕事を見て給料を決めてください」って必ず修業時代に言ってきました。

――佐藤さん
金儲じゃなくて人儲けの方が得意だとおっしゃっていましたが、人儲けの方法というのを教えていただけたら。

それやったら皆成功しますよ。そんなの人に教えてもらえますか。
そうじゃなくて、謙虚性さであるとかお客さんの目線であって、そして必ず勘違いするのはお客さんとの間にもラインがあって、それを超えちゃいけないです。皆そのラインを超えてしまいます。友達だからいってお客さんが言ってきたりしてもそこはちゃんと線を引く。お金をもらう相手だから、それを友達ってことはありえないです。それを対等だと思う人もいます。しかし、その線は絶対に超えてはいけない。それは身内だってそうですよ。お客さんで来たときには違います。このラインはきちんと決めておかなければいけないです。それを超えないようにいいお付き合いをしていけば、本当に長い間…それはお金儲けにつながることなんですけどね。人を動かすということが大事だから。いかに、お客さんといい付き合いが出来るかということが大事だと思います。

――飯川さん
料理を作るときに新しい料理を作るときのアイディアというのはどこから生まれるのでしょうか。

1番いいことは、まず日本料理には季節というのがありますね。常識とかが決まっている。その決まりは誰が決めたのということです。時代ということを考えながらやらなきゃいけないです。僕らが修業した50年前の仕事は、下手するとさらにその4,50年前の仕事なんです。今の時代にやっていると100年前の仕事になります。薪をくべていたこととか。例えばサバとイワシを煮るときになぜ生姜で煮るのでしょうか。

学生
臭みをとるためですかね。

自分でやったことありますか?いまスーパーで臭いイワシは売っていないです。
じゃあなぜサバを味噌煮にしなきゃいけないのでしょうか。
学校でもそういう風にやっているけれど、サバという魚をなぜ味噌で煮なきゃいけないのか考えたことありますか。間違いですよ。この味が濃い魚はあっさり煮なきゃいけないです。味噌煮にするにはタラとかサケのようなあっさりした魚を煮るべきです。昔はサバの生き腐れと言って、臭くならないためにそういう手法が正しかったけど、今の時代に臭いやつは無くて、下手したら刺身になるようなものを、そんな見方をする考えがおかしいです。
新しい物はその時代に適応して、その時代に美味しいものを作ることが、新しいことであって、先程のみどり酢だってそうでしょ。普通だったら、ただ煮ればいいのではなくて、ここでコントラストということを考えたときに、皆さんたちがデザイナーだと思ったらすごいことじゃないですか。だからそのデザインも美術であるとか、こういうデザインであるとか、見たときにここにマッチする料理ってことを考えるべきだと思わないですか。それが決まっているからって、誰が決めたのって僕は思います。だから、歴史を全部見ます。他の人より歴史本を読んで、この時代にこういう料理があって、なぜあったのかとか考えてから新しい料理を作るようにしています。

~料理長からメッセージ~
僕らの時代より、皆さんの時代のほうが、頭がいいはずなんですよ。その場合にこの大きな信用だとか、こう見たからやる気になったりするでしょ。根性だとかこうとかじゃないです。とにかく好きになることです。
僕が先程言ったように、心が折れそうになった時、悪い状態のときに、生意気だと言われて仕事を干されることがありました。でもその時、別にいいやって。俺が必要な時あるから、働いてたら絶対手が足りなかったら必要になるんですよ。そんな時にいいやって思って、本を読んでサイエンスを覚えたりして、僕意地悪だから先輩に質問するんですよ。質問に答えられなかったら、「よし!俺の勝ちだ」って心の中でね。
だけどそういう風に勉強することも、例えば板前だって英語フランス語も喋れなければいけない時代になったじゃないですか。僕らは出来ないけど。やはり中国語だって喋れなきゃいけないです。インターナショナルになるにはね。常に勉強していかなきゃいけない。ただしどんな局面が来ても、崩れない自分を作っておかなきゃいけないです。
僕らはその気持ちをもっていたから、サイエンス的であるとか、理論武装を体の中に入れてきたから絶対大丈夫だったんです。それは修業時代から分からないことは何でも調べようとか、知ってみようとか。表向きにはやっている人達がいっぱいいるけれど、ただ僕にとってはその理論ってことをきちんと理解して、それを答えられる自分を持っていないと相手に勝てないです。相手が来たとき、僕は誰が来たってそれに勝てる。別にそれを見せびらかすこともないし、有名になっていこうとかってことはないけど、自分にとっての知らないことがすごく恥なので、自分が持っているだけいいです。
この時期、この時代にこういうことがあったということを、人が知らないことを自分が知っていれば、人に聞かれたとき「こういうことですよね」といって答えればいいです。それを見せびらかすこともないわけですよ。
若い子たちから質問をされたときに、「ああこうだよ」ってことを伝えられなかったら、僕のこと尊敬してくれます?「何だ、コイツ」なんて突っ込みたくなりますよね。だからあなたたちも2年生からは先生なんですよ。そんな時に、人間として尊敬される人になってほしいです。。
先程の長嶋さんと王さんがスターだよねってことは自分を演じきるか。「俺は先生だからすごい」という人間になれないとダメです。
俺は自由じゃないです。自由ほど苦しいです。だって誰が注意してくれます?自由ほど苦しいです。自分がルールを作らないといけない。常に先生になるということ。ただし、がんじがらめにやるのではなく、楽しみながらしないとダメですよ。仕事が辛いと思うから誰も進まないのですよ。
サーフィンをやる人は得意だから楽しくてやるでしょ。だったら仕事も朝から晩まで仕事しなければいけないと思ったら、その仕事楽しいほうがいいと思いますけどね。
だったら知らないこと全部知って、自分が決まっているその中で自由にふるまえたら幸せだろうなと思います。
皆から労働のことを言われてしまうと、そういうことなのだったら最初から学校給食でも行ったほうがいいです。居酒屋だからダメなのではない。居酒屋でも勉強する人はします。高いお金を取るからいい料理人ではないです。大衆的に素晴らしい物を作ってやろうという心がけが僕は好きです。食堂でも何でもそうです。
たまたま商売として、僕らはこういうお店でやっているから、もらわないといけないけど、例えば100円で美味いものを作れないやつが10,000円の料理なんて作れるわけないです。よく安いから美味いものを作れないなんて言い方をする人がいますが、それは違います。100円で美味いものを作れないやつが10,000円の料理なんて作れるわけないと思いませんか。だけど大体の人は、うちは安いからうまいものを作れないって言います。それは勘違いですよね。その瞬間やその素材を知ったときに、この状況で1番美味しいものを作れるということ。
例えば皆さん、ほうれん草のお浸しの一番おいしい茹で方知ってますか?

学生
大量の水でサッとゆでる。

野﨑料理長
それは何分ですか?時間だってあるんですよ。けどそれは誰でも言えるんですよ。
そういうことをきちんと出来るのかということです。これは何センチ、何ミリで切ったら絶対美味しいのかということじゃないですか。そういう哲学を毎日やっているのだったらそういう意識でいいと思います。
今日米を炊きましたね。米を炊くときも言ったように、皆さんの前で、20分ぐらいで炊けるけど、僕はこの後ろで3時間は喋れると思っています。永遠と喋っていられます。米はどうしてこうなっていくのかとか、何度でこうなるのかとか、この粒がこうであるとかということを。
じゃあコンビニのおにぎりの粒数を知っていますか。僕は食べないけど、皆さんはコンビニのおにぎり食べているはずです。茶碗一杯何gですか?

学生180gくらいですかね。

野﨑料理長
くらいじゃなくてなんで180gなんですかってことだってあるんですよ。
そういうことも踏まえて毎日勉強になるんですよ。一般的には150gですけどね。じゃあ米一合って何gですか?

学生
200…180g

野﨑料理長
それは誰が決めたんですか。自分でやりますか。やってないでしょ。人が決めたことに対していっていることであって。150gです。それは容積の問題であるとか、そういうことを1つ1つ自分が勉強しようと。決まっているんじゃない、本を読んだだけじゃダメです。
本を読んだ他にも自分が量ったけどこれ違うんじゃないの?ってことを考えることがすべて。あと本を読んでいる人ほど仕事が出来ないです。読むなっていうんじゃないです。読むんです。読んだ中に自分が消化出来るものをもってないとダメです。これは何度でどうするとか、ほとんどの人は本を読んだまま喋っています。だから僕はなんでそんなこと知らないの?って言います。本に書いてあったからって錯覚している。サバの味噌煮がそうでしょ。それが決まって洗脳されてしまっている。
なんで出汁を使うか知ってますよね?分かってないでしょ。美味しくないから出汁を使うのであって、美味しいものは出汁を使わなくていいんだって知っていましたか?皆さんたち最初から出汁を使わなきゃいけないと思っているから。足りないからうま味の素を入れる。
じゃあカツオと昆布の出汁が文献上に出てくるのは昭和になってからって知ってましたか?幕末にちょっとだけ出てくるけど、一般的になるのはそういうこと。家庭においてはカツオと昆布出汁を使うのは戦後ですよ。だから皆知っていると、先にも言ったと思うんですけど歴史ってものをちゃんとひも解いて、この時代にこういうものがあった、でもこの時代には出てきていないなってことが喋れるのです。ただ知ったかぶりのように喋るんじゃないんですよ。それを自分で探すことが楽しいことなんです。人に言われるのではなくて、自分でそこに気づくってことが毎日の仕事になるんですよ。
昔、僕が中華において尊敬する「山本豊」という方がいた竹爐山房いう店があって、この山本さんは店辞めたんですけどね、本当に理論的にちゃんと教えてくれるんですよ。理論を野﨑料理長さんこうだよってことをきちんと教えてくれる。僕は中華の山本豊のように僕は和食でなりたいなって思った憧れなんですよね。フレンチだったら熊谷喜八だったりね。その間に入れ替わる先輩たちだっていますよ。ニシオさんであるとか、そうなったときに僕の進むべき道はこの道だなって思う。大体そう思ってやってきましたよね。いい先輩たちに出会えたんですよ。別にテレビに出たいとか雑誌に出たいとかそういうことじゃなくて、ちゃんとしたものを人に聞かれたときに、色々な哲学を答えられる人間になりたいなって思っただけなんです。学生に伝えたらね、皆さんも勉強出来ているはずなんだよ。だから本を読まなきゃダメなんですよ。本を読んだ先に違うなって。先程の180gどこの本にも書いてありましたよね、米なんかね。だけど量ってみたら150gなんですよ。それはね容積が180gっていうことと重量は違うってことも分かってくるし、だからこういう水ですよ、こういうやり方するんですよって正しいものは真実を奨めるです。だから今日も醤油はなんで途中入れたかっていうことだって、理論上は皆最初から決めていますよ。ご飯を炊くんだったら、タイガーだったら煮だしてくれるとか、実際そうすると味が消えるんですよ。だから今日は水なんですよ。出汁使うからまずくなるってことだって、そういうことも分かんなきゃダメなんですね。ところがたくさん入れたからうまいっていうことの検証をしてないと、ああいうことが起きるんです。だから皆さんたちは家元になるべきなんです。本を読んだりして、自分流っていう家元になって、早くなってやろうって思えれば、早く独立出来ればいいわけでしょ。そのためには魚を卸すってことであるとか、煮るっていうことだって、焼くでも揚げるでも、きちんとした基本を持ってから自分の家元を作ればいいんです。だから僕はオープンに誰にでも見せることが出来ますって言える。全然怖くないんですよ。普通だったら隠すとか。だけど人に「やれるならやってみろ」っていうぐらいの強さがありますよね。そういう中で、人とはちょっと違うっていう、自分が家元になってやっていることは違うはずです。だから皆さんもなれるんですよ。本当に誰でもなれるんですよ。それもただ7年経験しなくたって出来るんです。短時間でもやれる。やはり生き方の流儀ってありますよね。こうやったら仕事は回らないなとか、どうしたら仕事教えてくれるかなってことは覚えないと。皆を味方にしないと、自分にいくらでも仕事を落とさないと。僕が先程言った、この商売やって1年ちょっと過ぎたときにキクチさんと出会って、その人の後ろ姿で仕事をして、その人のやり方で4年間トラブル起きなかったです。どこでもスムーズにいって、皆に可愛がっていただいて、本当にこの人の姿、厳しかったです。胃に穴が開くくらい。だけど自分じゃ弱音を見せませんでしたけどね。だからこういう人と出会ったら、自分になれるんです。それは自分じゃ気づかない、自分じゃ気づけない。だから自分も鏡があるといいんですよ。それはいい人と出会ってください。

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